君の鳥は歌えたのか?
院長の時々日記
10月10日は1990年に早逝した,佐藤泰志さんの命日です。
ああ、ノーベル文学賞も発表されましたね…やっぱり?村○春○さんはダメでした…
以前なら10月10日は”体育の日”でしょ!でしたが、それは置いといて…
最近、取り上げられることが多くなった作家です。
「海炭市叙景」は加瀬亮さんたちのキャストで映画化されました。「そこのみにて光り輝く」も、、彼を深く思う、多くの人たちの手で、映画化されましたが、没後長い間絶版扱いとされていた作家がなぜ今の時代に…。
佐藤泰志は、芥川賞候補に5度もノミネートされながら、大きな賞の受賞がなかった人です。
41歳で自ら死を選んだ彼が、「未完」のままで世に問うた本が、「海炭市叙景」です。
いわゆる遺作とも呼べる作品ですが、内容から彼の今後をうかがわせるものは読み取れません。
むしろ、それまでに比べ、増したと感じられる自由度の高さは小説家としての良い未来を想像させた作品とも言えます。
北海道出身で、本作も含め出身の函館を思わせる架空の街を舞台にした話をしばしば登場させます。
話の展開が鮮やかで、人と人との出会いや関係が鮮明に描かれ、引き込まれる描写をします。
作風はハードボイルド風なところもあり、やや硬質な表現の中に人に対する秘めた深い思いを感じます。
描かれる人たちは、いずれも市井の、という表現がふさわしい、高く上り詰める人達ではなく、苦しみながら”今”を生きてゆく人たちです。
かなり厳しい状況を抱えている、と思える人も多く、読むうちに胸苦しさを覚えることもあります。
ただ、彼らはこころの奥底で絶望しておらず、強さ、したたかさを内に持ち生きてゆきます。
おそらく、ここ近年の社会の流れが、彼を、彼の作品を必要としたのだと思われます。
緻密な、時に観察者的な、冷徹な描写に終始していたかと思うと、思わぬ作者の優しさ(弱さ)、によるとしか思えない展開に読者は翻弄されることも有りますが、多くの作品に底流する佐藤流のリリシズムを感じます。